2008年を締め括る3枚のCD(その3)は:「嵐/山下洋輔トリオ・大駱駝鑑・ジェラルド大下」、2008年を締め括る3冊の本(その3)は:「『奴雁』の哲学(浪川攻)」
大晦日を迎えることのできなかった方々も沢山いるのですから…
決して必然ではありません。
さて写真のお二人の方をじっとご覧下さい。
お一人は大駱駝艦の勝又敬子さん。
肝の据わった庶民の顔、苦しみ、悲しみ、喜びと執念、怨念など感じませんが悲喜こもごも生きて来、生きてゆく、そして結果として死んでゆくさまをこの鋳体で表しています。
そしてもうお一方は前川 春雄さん(1911年2月6日 - 1989年9月22日)第24代日本銀行総裁です。
なんと凛として活淡なお顔でしょうか。
お二人のお顔に現在の日本人が失くそうとしている表情を垣間見る事ができます。
さて、「嵐/山下洋輔トリオ・大駱駝鑑・ジェラルド大下」は1976年9月29日日本青年館で行われた、ヨーロッパ進出直前の、麿赤児率いる大駱駝艦「天賦典式ー嵐」の公演に、(鯨の鳴き声との共演で名を馳せた)パーカッショニスト、ジェラルド大下を加えたカルテット(山下洋輔/坂田明/小山彰太)で挑んだライブ録音を80分に編集したアルバムです。
山下トリオの最高傑作!遂に現る!!という気がしました。
情と怨念の方丈の哲学を完膚なきまでに叩き潰す、圧倒的な力と変化するリズム、私は山下洋輔トリオの実力を見誤っていたことを詫びなければなりません。
一体、このオープン・テーマ曲の「月の砂漠」はなんでしょう。この情念の深さと表現力の奥の深さ、そしてその迫力に圧倒されてしまいました。
月並みな表現を使うならばサン・ラ&ヒズ・アーケストラに通じる大スペクタル、目くるめく絢爛たる一大絵巻的叙事詩を聴き、そして観えるかの如くの傑作です。
うめき、唸り、そして足音やその他の雑多な人間が発する音声が、A・アイラー「ゴースト」のカバーまで含む山下トリオ・ジェラルド大下のテナーサックス・パーカッションの演奏と同じ比重で録音され記録としても披瀝されています。
そしてエンディングの「月の砂漠」を耳にするとき、私達が生きた、そして日本人が経験し、闘った70年代の熱い息吹をハイ・テンションでハイパーな臨場感で聴き、感じることが出来る作品です。
:「『奴雁』の哲学」(浪川攻)には「世界危機に克った日銀総裁」と言う副題が付いています。
前川春雄さんは1979(S54)年12月17日、第24代日本銀行総裁就任し、80年第二次オイル・ショックのインフレを金融引き締めで克服。84年に退任し、85年、経済構造調整研究会(経構研)座長を務め、日本経済の国際協調型への転換をうたった「前川レポート」「新前川レポート」をまとめ、国際的に評価を得ました。
しかし前川さんの功績は、セントラルバンカーとして政治や省庁圧力から独立した日本銀行の在りかたの範を毅然として示し、日銀の新しい伝統に孤立無援の哲学を残した事でした。
その孤立無援・毅然としたセントラルバンクの哲学を引き継いでいくのかまた行けるのかは前川さんの後継者達に懸かっています。
しかし、その姿勢は現在の小官僚どものみならず、財界経営者も見習うべきものでしょう。
今年一年を振り返りますと「悪人づら」が跳梁跋扈した一年に思えてなりません。
現在の日本は「悪人づら」が臆面もなく大手を振って往来を歩き、TVにでて大声で発言し、日本経済や政治の陣頭指揮を執る、そんな気がしてなりません。
来年こそは「悪人づら」がコソコソと引っ込んでいる、そんな日本でありたいと考えています。
皆様、良いお年を!!