蛍の光(別れのワルツ):肉体は魂の箱舟である。≪その2≫赤峯邦彦くんのこと
(赤峯邦彦くんの遺影と、病床でも手放さなかった柄谷行人さんの世界史の構造)
先日、ある方から次のような通信を頂きましたので、続きを書きたいと思います。
『赤峯さんってどんな方でした? 彼の最期、できたらもう少し教えてもらえますか?
:2015年3月25日の午前2時05分に会社の同僚から「赤峯さんの様態が急変したので、すぐに病院へ来るように!」と私の携帯に電話がありました。
胸騒ぎがした訳ではないのですが、携帯の鳴る、4・5分前には目が覚めてました。
私は、「すぐ行く」旨を伝えて、洗面をし着替えを始めました。私の住む八王子の駅前からは、さてタクシーでどの位かかるのでしょう?
家人にタクシーを呼んでもらい、2時40分にタクシーが到着。日大板橋病院へと向かいました。
高速に乗り、高井戸インターを降りて、環八を北上し、254号線を右折します。
深夜のこともあり、いやに冷え込んでいました。車中では、運転手さんが、「お客さん、お医者さんですか?」との問い。
「いや、友人が危篤なもので…」「それは、それは大変ですね。」と余り会話も続かず。「安全運転で行きますから…」との言葉。
車で、1時間25分、病院に到着したのが、4時05分でした。
急いで、病室へ行くと、葛飾在住の同僚が、ベンチに腰を掛けていました。
「赤峯くんは?」と尋ねると、「ああ、さっき亡くなったわ。いま、遺体の処置をしてもらっている。」とのこと。
横浜在住の上司は彼より先について、「下に煙草を喫いに行った。」との事。
「呆気なかったな。」と言葉を交わす。「苦しんだのかな?」「まあ苦しんだらしいわ。」「最期はあっさり逝ったらしい。」「良かったな。」「まあな。」
上司が戻り、様子を聴く。我々三人は赤峯くんも含め大学は違えども長年の友人でした。
私ひとりで、処置室に向かうと丁度、顔見知りの女性の看護師さんが来て、「ご遺体のご処置は済みました。」とのこと。
「苦しみましたか?」と同じことを尋ねると「そうですね。病状が病状ですからね。でも最期は安らかに逝かれましたよ。」とのこと。
「ところで、ご遺体の髭どうされます?」と言われ、部屋に入る。
赤峯くんはその時、苦しんだ表情もせず、深い深い、深海の中の眠りに深く深く陥っていました。
私は思わず、「辛気臭いので全部剃っちゃってください。」と呟いていました。
彫りの深い顔を髭で隠す必要もありません。「分かりました。剃っちゃいましょうね。」と、明るく応えてくれました。
「申し訳ありませんが、病室の私物の整理をお願いできますか?急がなくても大丈夫ですから。」
私は、その旨、同僚に告げると、「タグチの叔母さんには連絡したから…追っ付け来ると思う。部屋の片づけ任したわ。おれは、各所に連絡するから…」。
日大板橋病院に入院したのが2015年の3月11日の水曜日。
埼玉医大肝臓内科で診察を受けたのが、1月13日の火曜日。
埼玉誠恵会病院、国際医療センターと検査入院を経て、日大板橋病院へ入院した際には、余命四週間との事でした。
癌家系の私からすると、余命宣告の二分の一が落としどころです。
その旨は、上司にも、同僚にも告げてありました。皮肉にもぴったり当たって、しまいました。
前日、夕方に病室へ行くと、もぬけの空。荷物も何も有りません。
丁度、担当の看護師さんが、「赤峯さんは集中治療室へ移りましたよ。」「会うことはできますか?」「もちろんです。」と案内をされました。
「昼前後から苦しみだして、最初は我慢されていたのですが、矢も盾もたまらず、ナースコールを押されたようです。なんか、相当我慢強い方ですね。見るに見かねて担当医がこの部屋に移しました。現在、クスリ(モルヒネ)が効いているようです。」「こいつ、バカですから、やせ我慢するんですよ。」
私は、手を握り、声を掛けました。すると、薄目を明けて反応しました。解るかと言ったら、「ウ…」と頷いてくれたので、手を握り、「また、明日来るから…」と言うとまた、頷き目をつぶりました。
帰りがけ、看護師さんが私に、何度も何度も「担当医に会っていきますか?丁度今、医局に居ますので…」と繰り返したのですが、私は「後ほど、上司が参りますので、上司に先生に会って貰います。」と言い帰社しました。
会社に戻り、上司にその事を告げると、「後で先生に会ってくる」。との事。
しかし、上司が病院で担当医に取り次ぎを求めると「なにも話すことはない」。と会って貰えなかったらしいです。
帰りがけに、担当の看護師さんに、緊急の際の連絡先として、携帯番号を訊かれたそうです。
看護師さんも、先生も解っていたのですね。
さて、私が赤峯くんと最期に酒を酌み交わしたのは1月28日水曜日の20:30分です。(彼の手帳に20:30 ○シバ○氏と打ち合わせ。と、書いてあります。)場所は清水谷公園の前のオーバカナルです。
二人とも、この店が好きでよく来たものです。(続く…)